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大阪高等裁判所 平成11年(行コ)40号 判決 1999年12月22日

控訴人

橋本孝夫

控訴人

橋本典子

控訴人

矢野原美子

控訴人

石田由美子

右四名訴訟代理人弁護士

中田順二

非控訴人

下京税務署長 城尾嘉隆

右指定代理人

石垣光雄

原田一信

山村仁司

三木茂樹

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二1  被控訴人が控訴人橋本孝夫、同橋本典子に対し、被相続人橋本與一郎の相続にかかる相続税について、平成七年一月二三日付けでした相続税の各更正のうち、それぞれ納付すべき税額四億一〇一三万三八〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

2  被控訴人が控訴人矢野原美子に対し、被相続人橋本與一郎の相続にかかる相続税について、平成七年一月二三日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分及び同日付けでした更正(ただし、平成七年八月二五日付け更正処分及び平成八年一〇月三日付け更正処分により減額更正されたもの)のうち、納付すべき税額一億九一三九万五七〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

3  被控訴人が控訴人石田由美子に対し、被相続人橋本與一郎の相続にかかる相続税について、平成七年一月二三日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分及び同日付けでした更正(ただし、平成七年八月二五日付け更正処分及び平成八年一〇月三日付け更正処分により減額更正されたもの)のうち、納付すべき税額二億〇〇五〇万九八〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

次のとおり付加、削除するほかは、原判決が「第二 事案の概要」に記載するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一二頁九行目の「控除したものであり」の後に「(ただし、一〇〇〇円未満切り捨て)」を加える。

二  同一五頁七行目の「借地権価格」の後に「(六割相当)」を加える。

三  同別表1の欄外の(注)の「3 <11>については、「別紙相続関係図」参照」を削除する。

四  当審における双方の補充的主張

1  控訴人ら

(一) 平成四年一〇月一〇日付けの遺産分割協議書にはさ紀の建物に関する借地権の記載はないが、平成五年一月二六日に修正申告及び更正請求をする際に控訴人らを含む相続人全員でさ紀が本件土地に借地権を有することを合意した。したがって、右修正申告及び更正請求自体が遺産分割協議であり、控訴人らは、平成一一年三月五日ころ、その趣旨を「遺産分割協議書付記事項」と題する書面(甲六)によって確認した。したがって、さ紀が本件土地に借地権を有することを前提とした更正請求は認められるべきである。

なお、被控訴人は、共同相続人である中本幸子が遺産分割協議により取得した建物の敷地についてはさ紀の借地権が存在することを認めているのであるから、控訴人らが取得した土地についてもさ紀の借地権が存在することを認めるべきであり、中本幸子と取り扱いを異にするのは不合理である。

(二) 容積率補正通達によれば、土地の評価が低くなるため、納付すべき税額は低額となる。しかし、土地を物納する場合には低い価格でしか評価されないから、右通達は、控訴人らにはむしろ不利益となる。したがって、右通達が土地の適正な価格を算出する手法であるとしても、通達として行われる以上、不遡及の原則によりこれを遡及させることは認められるべきでない。

2  被控訴人

(一) 納税者が行う納税申告(修正申告を含む。)あるいは更正請求は、共同相続人全員の合意で遺産の分割を行う遺産分割協議とは全く法的性質を異にするものである。したがって、修正申告及び更正請求自体が遺産分割協議の合意であるかのような控訴人らの主張は失当である。

(二) 控訴人らが作成した遺産分割協議書付記事項と題する書面(甲六)は、本件控訴提起後、本件土地に関するさ紀の借地権の有無が問題となってから、作成したものにすぎず、その内容も、未分割の相続財産や分割後に新たに判明した相続財産を分割するものではなく、既になされた遺産分割協議により分割された財産に借地権を設定するというものにすぎない。また、土地賃貸借契約書等(甲七ないし一二)も、それが作成されたのはいずれも遺産分割協議の後である(特に、甲七、八、一一号証は、控訴人らが修正申告及び更正請求がなされた後の平成五年四月一日に作成されている。)。

したがって、これらの書面は、遺産分割協議あるいは修正申告及び更正請求の当時にさ紀が本件土地について借地権を有していたことを証するものとはいえない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決が「第三 当裁判所の判断」に記載するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一八頁六行目の「記載はないと」を「記載はないことが」と改める。

2  同一九頁二行目の後に行を改めてつぎのとおり加える。「 ところで、証拠(甲六ないし一二)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、平成一一年三月五日ころ、平成四年一〇月一〇日付け遺産分割協議書(乙三)に関連して、さ紀が建物を借地権付きで相続したことを確認する旨の遺産分割協議書付記事項と題する書面(甲六)を作成しているほか、さ紀との間においても、本件土地上にさ紀の建物のための賃借権を設定する旨の平成四年一二月一日付けあるいは平成五年四月一日付けの土地賃貸借契約書(甲七ないし一一)あるいは平成八年二月一日付けの覚書(甲一二)を作成していることが認められる。

しかしながら、右書面は、いずれも遺産分割協議がなされた平成四年一〇月一〇日より後に作成されたものであるから(特に、甲七、八、一一号の土地賃貸借契約書は、賃貸借期間の始期それ自体が修正申告及び更正請求の後である平成五年四月一日とされており、さ紀が遺産分割協議によって本件土地についての借地権を取得したとの控訴人らの主張と明らかに矛盾している。)さ紀が遺産分割協議によって本件土地についての借地権を取得した証拠と認めることはできない。

なお、控訴人らは、被控訴人が共同相続人である中本幸子が遺産分割協議によって取得した土地についてはさ紀の借地権が存在したことを認めているにもかかわらず、本件土地についてのさ紀の借地権が存在することを認めないのは不合理であると主張するが、弁論の全趣旨によれば、控訴人らの中本幸子が遺産分割協議によって取得した土地のうち、原判決の別表2の順号32番の土地は、当初の申告においては、さ紀が土地上の家屋及び借地権を取得し、中本幸子が底地を取得したとして底地と借地権を分離する計算がされていたが、遺産分割協議の結果、土地及びその上に存する家屋をいずれも中本幸子が取得することになり、これに伴って借地権と底地を分離させていた計算も修正されていること、同順号34番の土地は、駐車場として利用されている土地であり、当初の申告時から底地と借地権を分離する計算はされていなかったことがそれぞれ認められる。したがって、被控訴人が中本幸子の取得した土地についてさ紀の借地権が存在することを認めているということはできないから、控訴人らの右主張は理由がない。」

3  同二一頁二行目の後に「また、容積率補正通達に定める容積率の補正を行わなければ、容積率が高い場合、個別の土地については、当該土地を物納する際の評価が高額となる場合もあり得るが、高い容積率のまま相続税を計算すると、土地全体の評価が高額となる結果、納付すべき税額が高額となり、全体としては納税者にむしろ不利な結果をもたらすことは明らかであるから、物納される土地の評価だけをとらえて、全体の土地の評価に際し、右通達を適用すべきでないということはできない。」を加え、同三行目の「右認定の事実に照らせば」を「以上によれば」と改める。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日・平成一一年一〇月二七日)

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 亀田廣美 裁判官 坂倉充信)

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